電車内で急病人 冷たかった乗客
学校非常勤講師 鈴木智子(さいたま市37歳)
先日、朝のラッシュ時の出来事です。
東京の新宿駅に間もなく着くという時、初老の女性が突然倒れました。
近くにいた中国人らしき男女とアラブ系らしき男性が、「大丈夫ですか」と片言で声をかけ、それを聞いた人が警報装置のボタンを押すと、安全確認のため電車は緊急停止しました。
すると、一部の人たちからため息や舌打ちが聞こえてきました。
中には、「なんで押すんだよ!」と警報装置を鳴らした人を責める中年男性もいました。
私が倒れた女性に、「貧血ですか」と声を掛けたところ、意識はあり、うなずきました。
車内に、「貧血くらいで電車を止めて……」といった冷たい空気が流れるのを感じました。
5分ほどして電車がホームに入り、私と最初に声を掛けた外国人の方たちとでその女性を運び、待っていた駅員に託しました。
私は親切な外国人の方々に感謝しました。
と同時に、車内に居合わせた人々のあまりに冷たい反応に、すさんだ心を感じ胸が痛くなりました。
「自分さえよければいい」というあからさまな態度を、同じ国民として恥ずかしく思いました。
(読売新聞 2007年12月01日 東京版)
よくある素晴らしい外国人と心ない日本人を批判する投稿ではあるのですが、読売新聞としては余りにも考えのない行動が目立ったのでここで取り上げてみます。
鉄道会社がどういう事態を想定して緊急停止ボタンを設置しているのかは知りませんが、誰かが倒れた場合に緊急停止ボタンを押すなんて最もしてはいけない行動の一つではないでしょうか。
緊急停止ボタンを押した瞬間に、電車が停車中の場所に救急車が来るなら意味はあるのでしょうが、そうではない以上、無駄に救出の時間を遅らせるだけです。
今回はたまたま貧血だったから良かったものの、急に倒れた女性がクモ膜下出血や心筋梗塞などといった一刻を争う事態であった場合、緊急停止によって生じた時間のロスによって助かる命が潰えてしまった可能性だってありました。
その為、一見すると非道に見える<「なんで押すんだよ!」と警報装置を鳴らした人を責める中年男性>の発言の真意は「なんで押すんだよ。貴様の下らない自己満足の為に、貴重な時間が無駄に使われたんだよ!」という現代を生きるブラックジャック先生からの苦言だったのかもしれませんね。
まぁ、本当のところは単純に文句を言いたかっただけだろうとは思いますが、その男性はとんでもなく腹痛で、それこそ死に物狂いで駅に着くことを待ち望んでいたのかもしれませんし、山手線の通勤ラッシュの状態を考えれば、車内で体調を崩していた人間だって10人ぐらいはいたことでしょう。
はっきり言ってしまえば、この貧血で倒れた女性だってラッシュの車内にいるよりも、いち早く駅の医務室などで横になりたかっただろうと推測するならば、この行動に褒められる点が見当たらないんですよね。
この状態で緊急停止ボタンを押したことによって、誰か一人でも救われているのでしょうか?
なんか一つの善意の下に、100の不幸と1000の苛立ちを人々に与えただけとしか思えないのです。
以上のことを考えると<車内に居合わせた人々のあまりに冷たい反応>は当然のことのように感じてしまいますね。
しかしながら、そのボタンを押した男性の行動は、混乱しながらも女性を救おうという気があっての行動である為、非難する気はもちろんありません。
緊急事態であるが故に判断を誤ることだってありますし、ひょっとしたら警報装置のボタンを押すと電車が止まることを知らなかっただけなのかもしれません。
しかし、この投稿者は別です。
全ての流れを見てきた上で、乗客が冷たいと非難できる荒んだ心を感じて私は胸が痛く思いです。
朝の忙しい時間にいきなり電車が止まった挙げ句、どう考えても選択ミスとしか思えない行動に対して、人々は優しく投稿者たちの行動を応援しないと不服なのでしょうか。
停止した車内で人々は貧血で倒れた女性を励まし、急病人を看病する自分たちを拍手で見送るぐらいのことをして欲しかったのでしょうか。
善意なんて褒められる為にするものではありませんし、舌打ちをし溜息をついた人間だって、それ相応の事情というものがあったことでしょう。
彼らは自分の都合を隠してでも、貧血で倒れた女性の身を一身に案じなければならないなんてことはないはずです。
「自分の気さえよければいい」というあからさまな態度を、同じ国民として恥ずかしく思います。
その場で憤慨するだけならば、気持ちも理解できますが、投稿までして糾弾するのは少しばかりやり過ぎでしょう。
そして、「冷たい日本の社会」や「思いやりがない日本の社会」に対する外国人(主に韓国や中国系)という構図には飽き飽きしてしまいます。
それにしても、個人的には、電車の中に車掌に緊急事態を伝える車内電話みたいなものがあっても良いとは思いますね。
どう考えても、いちいち電車が止まるボタンしかないというのは、鉄道会社の落ち度のような気がします。